【現地レポート⑩】最後まで諦めなかった世代屈指の司令塔──日本航空北海道 中村泉咲
2025年12月25日
「SoftBank ウインターカップ2025 令和 7 年度 第78回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の女子 3 回戦で、注目のマッチアップが実現しました。
昨年大会 3 位の大阪薫英女学院 (大阪) と、今年のインターハイ準優勝の日本航空北海道 (北海道) です。両者ともに豊富な運動量を生かしたアップテンポなオフェンスが持ち味のチーム同士。第 1 クォーターからその特徴が色濃く出る点の取り合いが展開されます。
先に抜け出したのは大阪薫英女学院。2 年生 #7 原乙羽選手の果敢なペイントアタックやキャプテンの #4 幡出麗実選手の 3 ポイントシュート、さらには代名詞の激しいプレッシャーディフェンスからのファストブレイクなどで第 1 クォーターを 30-20 とします。
第 2 クォーターに入っても大阪薫英女学院の攻撃の手は止まず。攻防ともに日本航空北海道を圧倒し、前半で 26-54 の大差が付きました。インサイドのサイズに劣る大阪薫英女学院は、それを補うべく果敢にリバウンドに飛び込み、体を張り続けました。結果、#00 カマラ ファトゥマタ選手からに 3 ファウルを引き出し、女子U18日本代表の #6 庵原有紗選手にも自由を与えない完璧な前半戦を過ごしたのです。
ゲーム内容と28点という大きな差──このまま大阪薫英女学院が押し切るかと思われましたが、日本航空北海道もただでは終わりません。
後半に入ると、「戦術というよりも、ボールを奪いにいくことしか勝つ手段がなかったです。届かないかもしれないけれど、やるしかなかった」(矢倉直親コーチ) と、鬼気迫るプレーでボールを奪い、走り、1 本ずつシュートを決めていきます。その結果、第 3 クォーターを 30-19 とし、第 4 クォーターに入っても懸命に足を動かし続け、試合時間残り25秒で 1 ポゼッション差 (80-83) まで迫ったのです。
最後は僅かに及ばず敗れましたが、後半20分間の戦いぶりはインターハイ準優勝校のプライドを示すような、見事なものでした。
庵原選手が25得点・19リバウンド、ファトゥマタ選手が24得点・12リバウンドと 2 人のビッグマンがチームをけん引する活躍を見せた中で、彼女たちを生かし攻防で日本航空北海道のリズムを作っていたのは司令塔の #73 中村泉咲選手でした。

スターターの中では唯一の地元・北海道出身選手。中学時代は全国大会はもちろん、北海道大会でも上位に食い込んだことはありません。それでも、高校入学後は持ち前のスピードと気持ちの強さ、アグレッシブなディフェンスを武器にスターターの座を勝ち取り、3 年間、絶対的な司令塔としてチームを率いました。
試合後、中村選手は涙ながらに試合をこう振り返りました。「北海道の人がたくさん応援してくれていることも伝わってきて、地元の友達も『最後頑張ってね』とたくさん言ってくれてました。北海道の代表として日本一を取りたかったですけど、インターハイは準優勝であと一歩届かなくて、今回も悔しい思いで終わってしまいました。ただ、1 年生の頃からきつい練習とかもたくさんあった中で、それをみんなで声をかけ合って乗り越えてきて、その成果が今日、この試合で100%出し切れたわけでないんですけど、最後まで諦めないところでは出せたかなと思います」
前半は僅か 3 得点と相手のディフェンスに苦しみました。しかし後半は、彼女の言葉どおり誰よりも諦めない気持ちを出し、チームを勢い付ける 3 ポイントシュートやスティール、アシストと追い上げの原動力となりました。
3 ポイントシュート 5 本を含む計16得点・8 アシスト・3 スティール。その存在は矢倉コーチが、「やっぱり泉咲がいるからうちの強みが出せるし、大きい 2 人 (庵原選手とファトゥマタ選手) も生きてきます。彼女がいなかったらここまではできていないと思います。ディフェンスもオフェンスもすべての起点が彼女なので」と語るほど大きなものでした。
中村選手は手の甲に自ら「ナンバー 1 ガード!」と書いて試合に臨んでいます。この 3 年間で間違いなくそれに近付いたといっていいでしょう。中村選手は「一番成長したのはやっぱりメンタル面。1 年生のときよりもずっとメンタルが強くなったと思うし、試合の後半で 3 ポイントシュートを決め切る力などもこの 3 年間でついてきたと思います。自分たちのチームはビッグマン 2 人がいることが強みで、(それを生かすための) ボールプッシュはガードの役割です」と自らのプレーにも自信を見せます。
創部 3 年で全国の頂点が見える位置まで急成長した日本航空北海道。その原動力となった中村選手は、世代屈指のポイントガードとして高校バスケキャリアに幕を下ろしました。
