【現地レポート③】やりきる力を求めて~東京成徳大学高校~
2025年12月23日
第 1 クォーターを終えたところで10点のリード。初戦の入り方としては、けっして悪いものではありません。しかし最終の第 4 クォーターに――。
「SoftBank ウインターカップ2025 令和 7 年度 第78回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の女子 1 回戦、東京成徳大学 (東京③) は倉敷翠松 (岡山①) に 78-88 で敗れました。第 1 クォーターで10点のリードを奪った東京成徳大学でしたが、徐々に追い上げられると、最後の10分間は 12-24。逆転負けでした。
「第 3 クォーターまでは頑張ってくれていたんですけど、ちょっとしたところで準備してきたところが出しきれなかったところが悔しいですね。そこを出させてあげられませんでした」
東京成徳大学を率いて 5 年目の小林康裕コーチはそう振り返ります。その言葉どおり、最終クォーターでエースの #5 中里杏奈選手がフェイスガードをされると、それまでの流れが完全に断ち切られてしまいます。裏を返せば倉敷翠松のアジャストが成功したわけですが、東京成徳大学もエースがフェイスガードで守られることは織り込み済みでした。織り込み済みだったのですが、そこで自分たちのバスケットをやり切ることができなかったと小林コーチは悔やみます。

今年の東京成徳大学はけっしてサイズのあるチームではありません。だからこそ、機動力を生かしたディフェンスとトランジションオフェンス、ペイントアタックからキックアウトして 3 ポイントシュート、あるいはエクストラパスで次の 3 ポイントシュート――そんなバスケットを貫いてきました。しかし、逆転を許してからは、そのトランジションがどこか焦りのようにも映りました。
小林コーチも「難しく攻めなくてもいいところで難しく攻めてしまって……ちゃんと次のフェーズ、次のフェース、次のフェーズと入っていけばよかったんですけれど、そこはやっぱり初戦だったのかもしれません。『初戦が山だぞ。これを越えれば (上位進出の) 流れをつかめるぞ』とずっと言い続けてきたんで、それがちょっと大事な場面でギュッと硬くなっちゃったのかな」と言います。

悔しい逆転負けではありますが、その悔しさを下級生が経験できたことは、来年以降のよい糧になるはずです。
「私たちがやっていることが間違っているとは思えてなくて、やりきる……どんな状況になっても、ちゃんとアジャストしてやりきるところを詰めきらせてあげられなかったのかなと。それはプレー面だけではなくて、精神的な面も含めて、ああいう状況の中でもやりきれる力をつけさせてあげられればよかったのかなって、今振り返れば、そういう反省が出てきますね」
どんな状況でもやりきる――言うほど簡単なことではありません。それをどのように身につけていくか。小林コーチは信号を例にして話します。むろん交通ルールとしてのそれではなく、あくまでもバスケットボールをよりよくプレーするうえでの比喩表現です。すなわち、青信号は自分たちが有利な状況であり、赤信号は不利な状況、そして黄信号は対等な状況を表します。
「黄信号のときにいろんな判断ができるかどうか。青信号では行けるし、赤信号でも止まれます。じゃあ黄信号をどう攻めるか。きちんと状況判断することもそうだし、メンタルを保つこともそう。黄信号のところできちんとコントロールできるようにすることこそが『やりきる力』なのかなと思います」

これまでもそうした教訓をいくつも受け継いで、東京成徳大学は強豪校のひとつになっていったわけです。ウインターカップでは過去に 8 度も決勝戦まで勝ち進んでいます。それは、それ以前にいくつもの悔しい負けを経験しているからでしょう。今回の逆転負けをどんなチームになるための足掛かりにするのか。東京成徳大学のこれからが楽しみです。